N20226006
概要
当院で本研究に参加された研究対象者において、試験治療として短期放射線療法に続き初回術前化学療法(CAPOXIRI)を外来および在宅にて開始した後、第10日目に院外で死亡が確認された。
その後、術前化学療法に使用した試験薬1種の過量投与および経過観察実施時期の逸脱が判明した。
また在宅にて試験治療を実施する研究対象者の安全確保に不備があった。
対応状況等
・経緯
研究対象者死亡の一報を受けた後、試験治療の実施状況を確認したところ、初回術前化学療法第1日の試験薬投与において、試験薬イリノテカンの用量が最新の研究計画書に規定された「150 mg/m2(体表面積)」ではなく、旧版の研究計画書に規定された「200 mg/m2(体表面積)」であったことが判明した。
また初回術前化学療法の経過観察実施日に関して、最新の研究計画書では「開始後第8日(±1日)に実施」と規定されていたが、この範囲を逸脱する「開始後第10日」に外来診察予定日が設定されていた。
加えて、術前化学療法の開始後、在宅での体調悪化について研究対象者等より当院へ複数回の電話相談があったものの、有効な支持療法等の実施に至らなかった。
・発生要因
(1) 術前化学療法における試験薬の過量投与
当院でがん化学療法を実施する場合に必須としている「レジメン申請」の手続きにおいて、当院で本研究を開始した2022年11月時点では、研究計画書に規定された試験薬イリノテカンの投与用量は「200 mg/m2(体表面積)」であり、この用量が申請され承認された。
その後、2023年9月の研究計画書改訂により同薬の投与用量が「150 mg/m2(体表面積)」へ変更されたが、この変更に対応する当院レジメンの変更申請が行われなかった。
また研究対象者の初回術前化学療法実施前に、承認済みレジメンに基づく「レジメン登録」が行われたが、この際に登録レジメンが最新の研究計画書の規定と同一であるか確認されなかった。
(2) 術前化学療法1コース目の経過観察規定の逸脱
術前化学療法の実施時に参照された旧版の研究計画書では、初回術前化学療法実施時の経過観察規定はなく、担当医の判断によりこれを開始後第10日に設定した。
一方、最新の研究計画書では当該規定が追加され、「術前化学療法1コース目第8日(±1日)」に経過観察を実施することとされており、研究対象者に設定された経過観察実施予定日はこれに逸脱していた。
(3) 試験治療による疾病等への対応不備
在宅での初回術前化学療法(第2日以降)の実施において、研究対象者等より当院へ体調不良に関する複数回の電話相談があったが、有効な支持療法の実施に繋がらなかった。
その要因として、同意取得時の説明文書に当院相談先情報の記載が不足していたこと、当院の入電対応において相談者の背景情報が的確に把握されなかったこと等が推定された。
・是正措置および再発予防措置
【当院管理者による対応】
是正措置:
本研究の即時中断を指示するとともに、研究責任医師の当院における臨床研究実施資格を停止した。
また本研究に関係する診療科において実施中の各種臨床系研究について、新規登録の一時中断を指示するとともに、本件の発生に係る事項についての全件点検を指示し、その完了を確認した。
加えて、本研究以外の特定臨床研究で実施中のがん化学療法に関する、当院レジメン登録の全件点検を行い、本研究以外に最新の研究計画書と当院レジメン登録の内容に相違があるものがないことを確認した。
再発予防措置:
(1)がん化学療法の実施に関わるレジメン管理体制の強化
がん化学療法を実施する際のレジメンの申請や登録など、当院レジメン管理体制全般の点検を行い、関連する規則や手順の再検討、これに関わる当院教職員の業務体制の見直し、および研究計画書の改訂等により承認済みレジメンの変更が必要となった場合の実施手順等について明確化および周知徹底を指示した。
また集学的治療の一環としてがん化学療法を行う場合のレジメン申請、レジメン登録、ならびにこれらの変更を行う場合の実施者、実施手順、実施時期等の明確化および周知徹底を指示した。
(2)臨床研究法令に準拠した研究実施体制の徹底
研究責任医師、研究分担医師、非研究医師のそれぞれに対し、各自の役割と責務の再確認を求め、各々の実施事項の明確化を指示するとともに、複数診療科が共同して臨床研究を行う場合の当院実施体制のあり方について改善を求めた。
(3)在宅で試験治療を行う研究対象者に対する安全確保体制の強化
臨床研究への参加に関する同意取得時に用いる説明文書について、当院における研究上の相談事項に関する連絡先情報の記載確認を徹底すること、および研究責任医師や研究分担医師が不在の際の対応体制の明確化を指示した。
また、試験治療として在宅がん化学療法を実施する研究対象者の安全確保のため、紹介元医療機関や居住地域の近隣医療機関への支援依頼を含め、対策の強化を指示した。